Evidence-based Linguistics Workshop Web Pages
講演者名に◎がついている発表が、互選による優秀発表賞審査対象者です。
9:30 開場 (9:30 より前にはいらっしゃらないようにおねがいします)
10:00 オープニング
本研究では、「構成の反復」に関する言語資源を構築するために必要な反復単位の認定基準について考察する。構成の反復とは、同じ言語表現のパターンを繰り返す修辞表現である。構成の反復を収集した言語資源を構築するには、同一構成の反復とみなされる表現の範囲をテキスト上にアノテーションする必要があり、そのための基準を定めなければならない。比較的単純な例では範囲を定めることに大きな困難はないが、複雑な例では認定方法によって得られる結果やそこから得られる示唆が異なってくる。そのため、本論では具体例に対し複数の基準でアノテーションした結果を比較しつつ、各々の利点と欠点について考察する。また、範囲の認定基準によっては、同じ構成の反復であっても、全ての要素に共通する特徴は見られないが、部分的に特徴を共有することで形成されるまとまり、つまり家族的類似性が認められることを示す。
理論言語学において, BE・HAVE動詞は統語上埋め込み節に2つの名詞句をとり, 片方の名詞句を主語位置に移動させる, いわゆる繰り上げ動詞の一種であると仮定されてきた (Myler, 2016)。この統語的な特性は, 経験的にも語彙動詞とは異なる振る舞いをすると。BE・HAVE文はその統語構造の複雑さによって自己ペース読み(SPR)課題 における文全体の反応時間 (RT) が長くなるという結果が報告されている(Samar & Berent, 1991)。しかし, 以下の3点は明らかになっていない: (i) HAVE文においてもBE文と同様のRTが得られるのか, (ii) BE・HAVE動詞のどの領域でRTが長くなるのか, (iii) BE・HAVE動詞文は,疑問文環境でも文処理タスクにおいて並行的な振る舞いをするのか。本発表では, SPR課題においてBE・HAVE動詞文の動詞領域において有意にRTが長くなること, 容認性判断実験においてBE・HAVE動詞文が特定のwh句抜き出しにおいて並行的な容認度を見せることを示す。
日本語においては、従属節において発話時を基準として解釈されるテンス(絶対テンス)と主節のイベント時を基準として解釈されるテンス(相対テンス)の双方が存在することが知られており、どのような場合にどちらのテンス解釈がなされるかということが、先行研究において多数議論されてきた。しかし、従属節を幅広く扱う先行研究においては例外となる現象が指摘される一方で、特定の従属節を詳細に分析している先行研究の知見は単純に従属節全般に敷衍できないといった問題点があり、日本語の従属節のテンス解釈システムは、包括的に明らかにされているとは言い難い状況である。本発表の目的は、日本語の副詞節に焦点を当て、コーパスにおける現れ方に着目しつつ従属節テンスの解釈メカニズムを明らかにすることである。主節・従属節それぞれの述語が持つアスペクト・テンス的意味と接続形態素の意味が構成的に組み合わせられ、主節・従属節イベント間に可能な時間関係が定まることによって、絶対テンスと相対テンスのどちらが選ばれるかが決まることを主張する。
言語理解が迅速かつ効率的である理由の一つは、言語使用者が常に次に来る言語入力の予測を行うからである。文理解における「予測」メカニズムに関して、VO(動詞-目的語)言語では制約依存モデルが主張するような動詞が持つ語彙情報を手掛かりとした統語処理が行われると考えられている。動詞が入力されると統語的な予測がなされ、その予測に基づいて文処理が行われる。しかし、これまでの研究は、SVO(主語-動詞-目的語)言語(Altmann& Kamide, 1999; Knoeferle et al, 2005)を対象にしたものが主流で、VOS 言語理解に関する研究は限られている(Sauppet al, 2013; Garrido et al, 2023) 本研究では、対称態を持つ VOS 言語であるセデック語を対象とし、その言語での予測メカニズムを明らかにすることを目指す。セデック語(オーストロネシア語族)は対称態(symmetrical voice system)を持つため、意味役割に基づく予測と文法関係に基づく予測を峻別できる点に研究の新規性がある。これらのメカニズムを深く理解することで、心理言語学における言語理解の新しい視点や理論的基盤を提供することを目指す。
語彙素は様々な異形で音声実現する。例えば「辛い」という語彙素は「からい」という規範形だけでなく、「かれー」という非規範形で発音されることがある。このように音声実現に変異が見られる場合、ある異形が別の異形よりも頻度が高いことが一般的である。先述の「辛い」という語彙素に関しては、規範形の方が非規範形よりも選択確率が高い。また社会特性に応じて、異形の選択確率が変化することが知られている。日本語の規範形と非規範形に関して、男性の方が女性よりも非規範形を選択する可能性が高いことが指摘されている。本研究ではこれらの選択確率が語彙認識に影響を与えるかを検証した。語彙認識実験を行い、実験には30名の日本語話者が参加した。被験者は男性の声と女性の声で産出された規範形と非規範形、無意味語を聞き取り、実在語かどうかをキーボードで回答した。正答率と反応時間を分析すると、選択確率に応じて語彙認識の正確さと素早さは変化することが明らかになった。具体的には非規範形よりも規範形の方が語彙認識よりも正確で素早く、非規範形に関して男性の声の方が女性の声よりも反応が素早いことがわかった。
In this presentation, I will investigate the meanings and distribution patterns of the Japanese numerical additive particles ““ato”” and ““moo””. I argue that although ““ato”” and ““moo”” deliver an additive meaning, they have different scale properties are different. ““Moo”” is non-endpoint-oriented in that it simply adds a given degree to an existing degree, whereas ““ato”” is endpoint-oriented in that it signals that adding the given degree to an existing degree will reach an endpoint. In terms of distribution, although both ““ato”” and ““moo”” can co-occur with eventive predicates, only ““moo”” can co-occur with a stative predicate, which results in comparative interpretation. The paper shows that ““ato”“’s requirement of a future-oriented endpoint explains its incompatibility with the stative predicate, and this supports the idea that event verbs have an event argument, while stative predicates do not (e.g., Katz 2003, 2008; Kratzer 1995; Maienborn 2005). One puzzling point is that if we embed ““ato”” in a conditional clause or a modal sentence, ““ato”” can co-occur with a stative predicate. I argue that the requirement for an endpoint-oriented measurement in ““ato”” is satisfied through the intensional operator, demonstrating that the constraint on the scale structure is met not only at the local level but also at the global level. This paper provides a new perspective on the semantic variation of additive particles in terms of eventuality and intensionality.
本発表では現代日本語の多義語の語義間類似度を地域別に調べた結果を報告し,多義ネットワーク構成の地域的な差異について検討する。従来,個人間の差異の抽象(国広1982)に基づき,大多数の人々の共有部分に対する分析が作業原則とされ,共通語を対象に調査・分析がなされることが多かった。しかし,多義語の運用には地域的な差異があることが方言辞典などで報告されている。本発表で報告する調査では,現代日本語形容詞「あまい」が「関西のみそしるはあまくてどうも口にあわない。」(飛田・浅田1991: 31-32)といった例文において〈塩分がたりない様子〉を表す際,「うすい」,「みずくさい」などの異なる形式で代替する地域があること(石垣 1983)に着目し,題材とした。Yahoo! クラウドソーシングで日本の11地域ごとに「あまい」の例文を用いて語義間類似度を調査した結果に基づき,各地域で構成される多義ネットワークの差異を報告する。
elw[at]ninjal.ac.jp